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福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)622号 判決

控訴人

安武竹子

被控訴人

大内田正勝

右訴訟代理人

山本郁夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載の建物につき、昭和四五年五月一五日贈与を原因とする所有権移転登記手続をなせ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

一、控訴人は仮定抗弁として次のとおり述べた。

1  仮に贈与の事実が認められないとすれば、控訴人は、昭和四五年七月八日、訴外原田守から、同訴外人が被控訴人から賃料一ケ月二万二、〇〇〇円期間三年の約で賃借していた本件一階部分についての賃借権の譲渡を受け、右賃借権の譲渡について被控訴人の承諾をえているものであつて、右賃借権に基づいて本件一階部分を占有しているものである。

2  そして、右賃料の未払分については、控訴人は被控訴人に対し左記反対債権を有するので、昭和四九年一月一三日の本件口頭弁論期日における同月一〇日付準備書面の陳述により対当額において相殺の意思表示をする。

(一)  六万〇、九五〇円 控訴人が被控訴人のため昭和四五年五月から同八月までに立替えたバーの飲食代金

(二)  三万〇、九九〇円 控訴人が被控訴人に対し有する飲食代金

(三)  二六万円 控訴人が被控訴人に対し、福岡市室見町の土地代金に充当するため預けた金員

(四)  二三万一、二〇〇円 控訴人が被控訴人から昭和四五年一一月一七日受けた傷害全治四四日間の治療費一万一、二〇〇円休業補償費二二万円の損害賠償請求権

(五)  四万円 被控訴人のいやがらせにより店じまいしたことによる営業保証金(昭和四五年一二月一七日から昭和四六年三月一七日までの間八回分一回五、〇〇〇円の割)相当の損害金

二、被控訴代理人は、右控訴人の仮定抗弁はすべて否認すると述べ、なお相殺の抗弁における控訴人主張の自働債権については、目下福岡地方裁判所に給付訴訟が提起されている(同庁昭和四七年(ワ)第一四〇五号貸金等請求事件)ので、相殺の抗弁は民訴法二三一条に抵触し不適法であると述べた。

三、控訴人は、控訴人が被控訴人主張の如く右自動債権についての請求訴訟を提起し、現に係属中であることは認めると述べた。

四、〈証拠〉略

理由

当裁判所も本訴における被控訴人の請求は認容さるべきであり、控訴人の請求は棄却すべきものと認定判断するが、その理由は、次に訂正付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1原判決六枚目表一行の始めから同七行目「よつて、」までを次のとおり改める。

「三 つぎに、控訴人の賃借権の譲渡を受けたことに基づく賃借権の主張については、これを認めるに足りる証拠はない(乙第五号証は、什器備品に関するもので賃借権が含まれているとは認め難い。)ので、この点に関する控訴人の抗弁は理由がない。

そこで被控訴人主張の賃貸借の存否及びその終了について」

2原判決七枚目裏三行目を削除し、その跡に次のとおり挿入する。

「六 次に控訴人の相殺の抗弁については、控訴人がその主張する自働債権について、相殺の意思表示をする以前に既にその請求訴訟を福岡地方裁判所に提起し、それが現に係属中であることは当事者間に争いのないところであり、このように債権に基づいて請求訴訟を提起し、その訴訟係属中に、他の訴訟においてその同一債権をもつて相殺を主張することは、結局同一債権について既判力を生ずる二個の裁判を求めることになるから、民事訴訟法第二三一条の類推適用により許されないものと解するを相当とする。

よつて控訴人の右相殺の抗弁は不適法として採用できない。

七 まとめ」

してみると、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(亀川清 美山和義 安部剛)

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